ダッキングについてもう一度考えてみよう

パソコン音楽におけるダッキングとは、キックとベースなどの帯域の近いサウンドが同時に鳴る時に、片方の音を一瞬下げて、高い音圧を保ったまま、双方の音を聴かせるという手法です

一時とてもブームになって、今は定番となったテクニックです

私が初めてこのダッキングを意識したのは、2008年あたりのアメリカ西岸のビート音楽の流行でした

Flying LotusやMatthewdavidの音楽が新しい流行として、日本にもライブしにきていましたし、私もそこに遊びに行って、デモテープを渡したりしていました

初めの印象は、とにかく音圧を上げたくてリミッターをかけたマスターに音をパンパンに入れた結果、偶然できたような感じでした(私の印象です)

リミッターをかけた状態で、キックとベース、ベース以外でもいいですけども、これらをビリつく一歩手前まで音量を上げていき、レベルメーターはもちろん真っ赤。そこで微調整して、キックだけちょっと前に出るようにするのです

コツはキックのサステインを下げて音を短くすることです。トランジエントを0にしたり、波形ごと縮めてもいいでしょう

ドン、というキックでは、音を上げるとビロビロに音が伸びたようになってしまいますから、パツン!と聴こえるくらい短くしてから、可能な限り大きな音に設定します

そうすると他の音を突き抜けて、キックが一番優先されて再生します

私の記憶では、abletonのコンプレッサーにサイドチェイン機能が搭載されたのはその後でしたから、最初はそういった偶然から、もしくは何か上位の機材でやっていたのかと思います

パソコン音楽がようやく一般的になって、という時代です。まだMPC2000とかでビートを作って、D-12とかのMTR(!)にパラで流し込んで、CDRデッキでデモを作っていた時代でしたから、リミッターというだけでも、これがプロのスタジオとかにあるやつなのか、といって大変面白がって使ったものです

革命的な進歩は、思わぬところから、失敗とも言えるような場面から、大した金もないような場所から、生まれるもので、でかい音が出してえ、という素朴な欲望と、それを実現するにはどうしたらいいのか、という冷静な思考と工夫

お前のウチになんかねえのか、そういや親父が使ってたキーボードがあったよな、みたいな話はよくありますし、近年のブームは私のような中年が若者だった時のリバイバルを感じさせます

親になって、家にあの時使ってた機材、レコード、スケボー、ブランド物の洋服、車があったりして、子供がそれを使って遊んだりするでしょう

さて、ダッキングに話を戻しますと、最近ではKickstart by Nicky Romeroみたいな、サイドチェインではなくシェイパー的なアプローチでのダッキングエフェクト、もありますし、シンセでアタックの部分を調整すればキックがなくてもダッキング的なウワッと持ち上がってくるサウンドが得られますから、そういったものを絡めて使ってみると、新しい質感の音楽ができるのではないでしょうか

Kickstartのいいところは重なっているサウンド、キックとベースどちらか片方しかならないという展開の時に、ボリュームを調整しなくていいことです

サイドチェインでよくある問題は、重なって発音しているときは適正なバランスで聴こえていても、ソロになると音が大きくなり過ぎてしまい、エンべーロープを書くなどして音量を下げないといけないことです

ダッキングサウンドが必要ない場面ではKickstartの電源を切るだけでいいでしょう

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